デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になっていくという「フリーの流れ」は止まらない。遅かれ早かれ、フリーと競い合うことになるので、フリーの別の部分の価値を受け入れるようにする。稀少なものに値段をつけるのでなく、潤沢なものを管理する。
「FREE(フリー)-無料からお金を生み出す新戦略」の冒頭には、こんな言葉が書かれています。
「なぜ、一番人気のあるコンテンツを有料にしてはいけないのか? なぜ、ビット経済では95%をタダにしてもビジネスが可能なのか? あなたがどの業界にいようとも、<無料>との競争が待っている。それは可能性の問題ではなく、時間の問題だ。そのときあなたは、創造的にも破壊的にもなり得るこのフリーという過激な価格を味方につけることができるだろうか?」
どうして航空料金がタダになるのか?
どうして車がタダになるのか?
どうして教科書がタダになるのか?
ここに無料のパラドックスがある。料金をとらないことで、大金を稼いでいる人々がいるのだ。すべてとは言わないまでも、多くのものがタダになっていて、無料か無料同然のものから、一国規模の経済ができているのだ。
カミソリで有名なジレット社の創業者ジレットは、それまで普及していた「旧型カミソリ(刃と柄がまっすぐのカミソリ)」から「T字カミソリ(刃の交換ができるカミソリ)」を、思いつき、この新型カミソリを売るために、いろいろなマーケティングを試したそうです。
その中でも一番効果のあったものが、無料サンプルの配布だったそうです。無料で配った安全カミソリは、やがて替え刃の需要を作り、その後、数十億枚の替え刃を売ることで、今や、このビジネスモデルはすべての産業のお手本となったのです。
- 携帯電話をタダであげて、月々の使用料をとる
- テレビゲームの端末を安く売って、ゲームソフトを高く売る
- オフィスにおしゃれなコーヒーメーカーを設置させて、高いコーヒーのパックを売る
しかし、上記のどれもが、「旧式のフリー(無料)」によるマーケティング手法だと、この本の著者は暗に示しています。確かに、この方法は、もう既にやり尽くされた感がありますよね。
「フリーギフト(おまけ)付き」は、商品の中におまけのコストも含まれている。「送料無料」は、商品の価格に送料が組み込まれている。
僕には、この手法に、すでに限界がきているように、この本の著者と同じように感じています。
例えば、有料コンテンツ放送で儲けている「WOWOW」のマーケティング手法である「初月無料」も、実際には、契約月に解約できず、2カ月目以降で解約することになるので、クリス・アンダーソンが言うところの「21世紀のFREE(フリー)」ではなく、従来型のフリーであると言えるでしょう。
もし僕が、WOWOWの社長なら、無料視聴ができる最初の期間を「3カ月間以上」の無料にしてしまって、「初月から解約可能」にします。正直、それぐらいしないと、「フリー(無料)」が当たりまえになっている僕らの世代(30代以下の世代)は、もう既に「中途半端なフリー」にお得感を感じなくなっているのです。
私たちサービスの利用者も、大々的に宣伝された「無料」の後すぐに、「有料コンテンツ」が来てしまうと、もう何も反応しなくなっている(不感症)ように感じます。
それくらい、「旧式のフリー」に、現代人は慣れてしまったのではないでしょうか。つまり、旧式のフリーは、自分がお得と感じる手前で、有料課金が訪れれば訪れるほど、「特別感」を感じなくなっているのが現状のような気がします。
しかし、この本の著者は、もっと、驚くべきフリーが存在し、それがこの本の革新に迫る「本当のFREE」だというのです。それが革命なのだというのです。
そして、21世紀の始めにいる私たちは、新しい形のフリーを開発しつつあり、それが今世紀を定義づけるだろう。新しいフリーは、ポケットのお金を別のポケットに移しかえるようなトリックではなく、モノやサービスのコストをほとんどゼロになるまで下げるという、驚くべき新たな力によっている。
この本で書かれている21世紀型の「フリー(無料)」は、「ムーアの法則」に基づいた、産業革命にも匹敵する、大きな転換点となるだろうと書かれています。
※ムーアの法則とは、「半導体の集積密度は、18カ月~24カ月で倍増し、チップの処理能力が倍になっても、さらに小型化が進んでいくという法則のことです。結果として、半導体の集積密度は、2年で2倍になるという経験則のことを言います。」
産業革命とはつまり、生産における重要な要素にかかるコストが大幅に落ちることです。ある機能を得るためにそれまでかかっていたコストは、新しい要素では実質的にゼロになります。18世紀の産業革命で使われるようになった物理的な力(蒸気力)を、それまでに利用していた動物や人間の力と比べると、コストは事実上ゼロになりました。そうすると、それまではお金がかかりすぎてできなかったことが、突然にできるようになったのです。それまで不可能だった工場の1日24時間操業も可能になりました。
ジョージ・ギルダー
アトム経済(原子経済)においては、私たちのまわりにあるたいていのものは、時間とともに価値が高くなる。一方、オンラインの世界であるビット経済(情報通信経済)においては、ものは安くなりつづけている。アトム経済はインフレ状態だが、ビット経済はデフレ状態なのだ。
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